2008年春版
今回初めて春の北海道を見てきました。春は昆布漁の時期ではないのですが、弊社従業員の研修を兼ねて今年の昆布の様子を探りに2泊3日の日程で道南地区を周って来ました。昨年の近年まれに見る不漁のあおりで昆布業界は原料不足に悩まされ、弊社にとっても今年こそという願いを込めた訪問でもあります。一昨年の爆弾低気圧、気候温暖化、漁師の減少高齢化などで、この先どうなっていくのか不安一杯ではありますが、とにかく夏の収穫時期まで昆布が順調に生育してくれるよう祈るばかりです。
4月12日天候 雨 
今回の訪問は事前の予報どおり天候が思わしくなく、到着日の11日と12日のメインの研修当日が雨で海も少々荒れ気味で、楽しみにしていた漁船に乗って昆布を採取する体験が出来なかったのが残念であった。しかし漁協の方々のご配慮により会議室での質疑応答など色々と勉強させていただき有意義な研修となりました。
左の画像は戸井漁協の組合長をはじめ幹部の方々、土曜日でお休みにもかかわらず長時間懇談していただきました。
弊社従業員の受講風景。昆布に関する色々な質問が出て、活発な懇談となりました。
雨で海の状態が悪く楽しみにしていた海上での研修が出来なかったため、海から生昆布を採ってきていただき実際に手で触れて感触を確かめました。海から上がったばかりの昆布は、ずっしりと重くつるつると褐色に輝いています。
採取道具を手にした様子。小生が手にしている棒は海底の昆布を巻き付けねじ取る採取棒。水深に応じて棒を継ぎ足し、最長で15メートルにもなるそうです。長い棒をねじる作業は相当力の要る重労働だと実感しました。
下の丸い道具は海底を覗く水中透視器で、口で噛んで固定し自在に操って昆布を探す。今度訪問した時には、これで実際に海中の昆布を見てみたいものだ。
  
本場折浜で一番使用頻度の多い採取棒。水中透視器で昆布の位置を確認し根っこの辺りを巻き取る、昆布の根は見た目より強く昆布を引き上げると大きな石が何個も付いてくることがあるらしい。
二股に分かれた採取棒は、午後から訪問する白口浜尾札部などの比較的水深の浅い浜で使用する。材質は塩ビパイプで柔らかく、昆布を傷つけにくいのが特徴である。
左は実際に昆布が巻きついた様子を乾燥昆布で再現した様子。
採取棒が届かないような深いところで使う道具。ロープで海へ投げ込み船で引っ張って昆布を採取する。左の画像のように棒の隙間に昆布が挟まってくる仕組みである。
道具も水深、潮の流れ、海中の様子によって様々に工夫されたたくさんの種類があり、実際に説明を受けると理にかなった感心するものばかりである。機械化が遅れているのも、昆布を大切に扱う気持ちの現われのようにも思う。
本場折浜小安にある昆布の種苗センターの内部。ここで昆布から遊走子(胞子)を取り出して培養し促成昆布の苗を作る。この時期は稼動していないが、天然昆布が減少した現在なくてはならない重要な施設である。
ナイロンに包まれた三角形のものは、昆布の遊走子を付着させるもので周りにはびっしりと糸が巻かれている。海水を入れた容器に一つずつセットし、そこに昆布の遊走子を投入、付着させ成長させる。
40日間ほどで数ミリに成長させ、漁師さんに販売される。昆布の苗を購入した漁師さんは、下の画像のようにロープに等間隔に数センチに切った苗を挟み込み海へ出して育てるのである。
昆布の促成(1年昆布)養殖(2年昆布)とは、養殖魚のように餌を与える養殖とは違い昆布の胞子を自然環境の海ではなく人工的な環境下で効率よく着床、生育させ後は天然昆布と同じ海で成長していくのですが、収穫された昆布は天然と比べると繊維に粘りがなく、味も薄くなります。私なりに考えた理由は①昆布の胞子が着床、生育する環境が海の方がはるかに厳しいためその中で生き残って成長する天然昆布は生命力が強い。②養殖昆布は海面の方でロープから垂れた状態でなびいており、海底に繁茂する天然昆布のようにアワビやウニのような外敵にさらされない。③海がシケたときには、養殖昆布はロープを下ろしてある程度回避できるが、天然昆布は自然任せになる。以上のような理由で養殖昆布は「過保護育ちである」と言う事が出来ます。
天然昆布は厳しい環境下で淘汰され生き残ったものだけが2年かけて成長し繊維の詰まった粘りのある、だしの良く出る昆布になるのです。弊社が天然昆布にこだわるのは、そういう理由からです。
雨の合間の昆布干しの様子。促成昆布の早採りだろうか、肉が非常に薄い。
室内で乾燥途上の昆布、部屋一杯に潮の香りが充満して何かほっとするような気がした。吊り下げられた昆布を手にとって見ると、あまりの薄さにワカメかと思った。
午後2時半白口浜南茅部漁協尾札部支所に到着、副組合長および役員の方々と懇談を行う。今年の昆布の生産予想を伺うが、やはり一昨年の爆弾低気圧の影響で今年も期待できないとのこと。6月の海中繁茂調査でより確実な予測が出るのだが、少しでも回復するよう願ってやまない。
左の画像は尾札部港内に打ち上げられた昆布。4月の昆布は成長途上でまだ実入りが薄い。
天候が悪い中、尾札部港外で拾い昆布漁をしている写真。この時期の昆布は早採り昆布となるのだろうか?弊社ではこの時期の昆布は使用しないが、真昆布の用途は非常に広いため何かの需要があるのだろう。
尾札部を後に恵山岬へ向かう。数年越しの念願であった椴法華海中温泉へ入浴する。下から湧き出す温泉はとても心地よく、旅の疲れを癒してくれた。
温泉を後に広大な白口浜を縦断し、鹿部から2泊目の大沼へ向かった。
4月13日天候 晴れ
朝目を覚ますと、これまでの天気がうその様に晴れ渡っていた。部屋から外を見ると雪を頂いた秀峰駒ケ岳の姿が飛び込んできた。温暖化の影響だろうか思ったより雪が少なかったが、広大な山容は見事の一言に尽きる。活火山らしく中央付近から噴煙のようなものが上がっていた。
目を駒ケ岳から目の前の林に移すと、かわいいキタキツネがこちらを恨めしそうに見ていた。さすが北海道、関西では絶対にお目にかかれない光景である。

ホテルから大沼へ向かう途中森の中に水芭蕉の群生を発見、車を止めてしばし鑑賞にふける。初めて見る水芭蕉の姿は、北海道の大自然の息吹を感じさせてくれた。
上の画像は、函館空港から離陸後飛行機の窓から撮影したもので函館山から広がる市街地の様子がよくわかる。帰る日に晴れ渡ってくるとは非常につらいものがあった。離陸直後海岸線を見ると澄んだ青い海に、たくさんの褐色の塊が見られ昆布が繁茂している光景がずーと広がっていた。夏の収穫時期まで順調に生育してくれるよう願いを込めながら眺めていた。
今回の研修で初めて春の北海道を訪れたのだが、思ったより温かく雪が少ないのには驚いた。漁協の方のお話の中でも、ここ数年は雪が少なく春の海水温が下がらないと嘆いていた。昆布の生育には低水温が欠かせない。海水温の操作は人工的には出来ないので頭の痛い話である。とにかく昆布の生命力に期待する以外道はなさそうである。これから先、天産物を取り扱うものにとっては苦難の時代が続くのは避けられそうにない。今年も8月末に函館に来る予定であるが、少しでも収穫量が増えるよう祈りながら北海道を離れた。
今年は昨年のような不漁になることはないだろうが、豊作も期待できず厳しく、難しい原料争奪戦の夏になりそうだ。
途中ウトウトしながら関西空港に着くと雨が降っていた。