2007年度版
本年の道南地区天然昆布の生産予想は、昨年10月の爆弾低気圧のシケで昆布が流出しており減産の予想であったが、昆布漁解禁の時期が近づくにつれ状況がますます悪化してきた。特に当店の主力産地である尾札部では、たった1時間しか採取できず終漁となった。その後、黒口浜椴法華(とどほっけ)など漁を中止する浜も現れ近年まれに見る不作となりそうだ。一昨年より3年続きの不漁となり仕入れが非常に難しく、入札・値決めが本格化してくるにつれて頭が痛い日が続きそうだ。 
8月27日天候晴れ 
午後2時過ぎ函館空港に到着。商社のMさんと一緒に道南3銘柄のひとつ本場折浜へ向かう。「本場折浜の天然昆布はまだましだが、白口浜・黒口浜の天然昆布は大減産だよ」とMさんの顔色はさえない。
関西の猛暑と比べると、空気が乾燥しており海からの風が心地よい。天気が良いにもかかわらず浜にはほとんど昆布を干していない。聞くと天気が良くても海が濁っていると底が見えないため、天然昆布漁は行わないらしい。昨年は昆布はあるのに天候不良で不作になったように、天産物はひとつ狂うと大変なことになる。
左上の写真は、本場折浜の天然昆布天日干しの風景。拾い昆布(波でちぎれて岸に集まった昆布)で丈が短く量も少ない。
折昆布の耳断ち作業の様子。見づらいがおばさんの横のかごに入っている昆布は、しわを伸ばすために一枚一枚巻かれている。非常に手間のかかる作業で漁師の方々には感謝、感謝である。
折昆布の仕立ての様子。右に見える定規で昆布の頭から何回も折り込んで丈をそろえる。この作業ゆえに折昆布という名称がついたのだと昔聴いたことを思い出した。
結束を待つ綺麗に積まれた折昆布。これまでに想像をはるかに超える工程の回数を経ている。
この後、各等級(等級は紐の色で区別し1等緑・2等赤・3等紫・4等茶色とすべての昆布に共通している)に仕分して結束し検査をパスしたものだけが出荷される。

   製品群
8月28日天候 晴れ
今日は朝から抜けるような青空で思わずホテル近くの函館山をカメラに収めてしまいました。
「今日は昆布漁はあるはずだ」と確信が持てるほどの天気で、案の定Mさんからも「今日は漁に出ている」と連絡があった。はやる気持ちを抑えながら迎えを待ち、本場折浜小安町へ向かった。
今日は本場折浜から山越えで白口浜尾札部へ向かい海岸道路を通って黒口浜を回る予定である。

海から上がったばかりの昆布を一本一本ピンチ(洗濯ばさみのようなもの)にとめている様子。小安の浜で一番腕の良い漁師さんらしく大量の昆布が上がっている。肉も入っており本場折浜は大丈夫みたいだ。この調子で好天が続くことを願ってやまない。
背丈の倍はあろうかという大型の昆布を持つ小生。海水の栄養分を一杯に含んだ天然昆布は、思ったより重たかった。折昆布は道南3銘柄の中で一番幅が広く大型の昆布が多いのが特徴である。生昆布をかじっても塩味があるだけで美味しくない。やはり太陽の恵みがあって初めてあの上品なうま味が生み出されるのだろう。
澄んだ青空の下、太陽光線をいっぱいに受ける昆布のクローズアップ画像。表面はつるつるでゴム板を触っているような感じがする。縦に黒い筋がある昆布は特に上等で乾燥しても痩せないらしい。
漁師さんたちに「体に気をつけて、がんばって良い昆布を作ってください」とお願いし、次の訪問地白口浜尾札部へ向かう。
尾札部漁港から見た前浜の様子。中央付近に見えるたくさんのブイは養殖昆布を作るエリアで、天然昆布はその手前の海域に繁茂する。今年は昨年10月の爆弾低気圧のシケで昆布が流れてしまい、昆布漁がたった1時間しか行われず近年まれに見る大減産となった。
尾札部は白口浜最大の収穫量を誇る浜なので、関係方面への影響は計り知れない。
穏やかな青い海を見ていると、何か寂しさがこみ上げてきた。
港内に生えていた水中の天然昆布。昆布の胞子が港内のコンクリートにまで付着し繁茂しているさまには、昆布の力強い生命力を感じずにはいられない。
今年は本当に貴重な尾札部天然元揃昆布1等の画像。1等から4等まで合わせて50本ほどしかないらしく、全くお話にならない。
種昆布は充分にあるとのことなので、来年、再来年に期待するしかない。
尾札部から黒口浜へ向かう途中、車窓から木直(きなおし)の港を見てびっくりした。湾内の分厚い防波堤が傾き、テトラが防波堤を超えて粉砕されたまま残っていた。昨年10月のシケは想像以上にひどかったようだ。
恵山岬を越えて黒口浜に入る。海岸に沿うように走る道を進むが、一向に昆布を干している気配がない。今年の仕入れは去年よりはるかに厳しいと思った。
左の画像は黒口浜天然雑昆布の仕上げ乾燥の風景だが、漁もほとんど終わりで減産は避けられないとのこと。
すべての予定を終えて2泊目の宿に入り海側のソファーに腰をかけて外を見ると、すぐ前の手すりにかもめがこっちを恨めしそうに見ていた。えさをもらいに来ているのだろうが、夕日を浴びてたたずむ表情に何か疲れを癒されるような不思議な感覚をおぼえた。
8月29日天候 晴れ
朝目を覚まして海を見るとおびただしい数の船が昆布漁に出ていた。望遠レンズ越しに見ると、長い竿を巧みに使い昆布を引き上げている様子が目に飛び込んできた。旅館のすぐ近くの所から遠くの岬まで所狭しと船が並んで見えた。本場折浜のすべての漁師が昆布漁に出ているようだ。
チェックアウト後タクシーを飛ばして浜へ向かった。

昆布漁の様子
函館からすぐ近くの根崎の港に行くと、ちょうど漁船が2隻港に戻ってくるところだった。ウインチで船を陸に引き上げ手際よく昆布を干してゆく。
昨日の小安の昆布と同様肉厚の昆布が多いようだ。

港へ戻る船
左の画像の左上に見えるらせん状のものが、ねじって昆布を絡めとる道具である。何本もパイプをつないで海底の昆布を絡めとるのは体力がいる仕事である。深いところでは15メートルにもなるらしい。
方や白口浜では水深が浅いので竿は短く、先端は二股の柔らかいパイプのようなもので巻き取る方法である。
右下に見える黒いものは海中を覗く大きな水中眼鏡である。

陸揚げされた昆布は、砂利を敷き詰めた干場の上に整然と並べられ天日干しされる。

昆布採りの竿の先端部分
浜を後にして函館山へ上った。展望台では昼間のため観光客も少なく、爽やかな風と柔らかな太陽の光でとても心地よかった。上の画像は展望台から撮った函館の景色で、右側のカーブしている海岸の中ほどからずーと奥にかけてが本場折の浜である。地元神戸六甲山の景色も素晴らしいが、左右に湾が広がるコンパクトな街並と奥行きのあるなだらかな山並みはここでしか見ることの出来ない素晴らしさがある。さすがに世界3大夜景で名をはせるだけのことはある。以前夜景も見たことはあるが、360度見渡せる昼間の景色も決して引けはとらないように思う。まだ函館を訪れたことがない人には、是非お勧めしたいスポットである。
私が滞在した3日間は非常に天気がよく昆布が不漁の中で、昆布漁を見れたのはとてもラッキーであった。1昨年からの不作の中、昆布に携わるものにとって非常に厳しい状況が続いているが来年、再来年の豊作に期待しつつ山を降りた。
明日入札があるので、帰りの飛行機の時間まで検品会場を3ヶ所訪問した。予想通り上場数量が少なく高値が予想されるため落札は非常に難しいが、参加だけはすることにした。弊社倉庫には在庫があるので無理に買う必要もないが、不作が続くと不安である。来年の今頃は明るいレポートが出来るように念願し函館を離れた。